大倉貞俊さんのバイク好きが高じて、普通のバイク屋では手の回らない部分をやる店として「プッシュロッド」を始めたのが93年の8月でした。
営業で何十軒もバイク屋を廻り、既存のバイク屋と自分の意識の差の大きさにバイク屋の下で前にでないでやっていこうという思いを捨てました。しかし、機械類は揃えたので、それを生かすため「カスタム(改造)」を中心に据えました。あわせて、知り合いの「ベスパの正規代理店をしないか」との声に、県内3軒目の専門店としてやってきました。
お客は口コミで増えてきましたが、カスタムを追求するとその人だけのものをつくるということになるのに「誰々と一緒のに」「写真と同じに」など、定番となり、何のためにやっているのか分からなくなって、一時カスタムを休止することにしました。
ベスパというバイクは、ローコストで壊れにくい庶民の足としてイタリアで生まれ、世代を越えて世界中で愛されている魅力と、「店主の前にメカニック」という大倉さんのメカ魂を引きつける魅力を併せ持つものでした。それは、ベスパはすべて金属製なので、絶対の自信を持つ鈑金、塗装や手作りの機械など他のバイク屋にはない特殊技術を生かすことができるからです。また、国内でもトップクラスの部品の在庫もイギリス、ドイツ、アメリカなど世界的に取り引きし、全国から問い合わせがあります。
これから、2サイクルエンジンのベスパは、環境問題にうるさい昨今、厳しい面がありますが、ものを製造するときの方が環境によくないことが多いので、ベスパを通じてものを最後まで使うことやリサイクルの大切さを知ってもらい、本物を知って、何世代にも渡って乗り続けて欲しいと思っている大倉さんです。