大屋栄さん(67歳)は中学卒業前に「傘製造業」に弟子入り、その後、「(店を)閉めるからよそに行ってくれ」と言われ、20歳頃に洋服仕立ての職人になりました。その後、いくつかの店を転職して、30歳頃に開業を思い立ちました。「お客にぺこぺこして、洋服を売るのが性にあわない。なにかないだろうか」と思案している時に、バイク屋さんで初めて皮つなぎを見て「これだ」と思いました。「女性はだれも鞄を持っている。皮の修理ができればうまくいく」と思い仕事を始めました。
14、5年前に、ポケットバイクがはやった時、5〜6歳のこどものつなぎを100着つくったこともありました。商売は「どんぐりの背比べではだめだ。人がしないことをやることが大切」と語ります。
時々、「雇ってくれ」と尋ねてくる人がいるそうですが、「1人でやっている方が気が楽だ」と大屋さん。
レザーやミンクのコートの手直しなども、時々入るそうです。ある日、若い女性が、レザーのブーツを持ってきて、「あっちこっち尋ねて、ここを紹介された。大きいので合わせてほしい」と懇願され、数日かけて直してあげました。また「あっちこっち探してやっと見つけた」と、バイクのつなぎを依頼に来た人もいます。「カイロを前後に入れられるつなぎを作ってほしい」という注文で、その人の体格に合わせたものをつくりました。
大屋さんは「私の仕事は『こだわりの世界』、価値に対して払ってくれる。こだわりの物は、それなりのお金を払ってくれる。私のような皮加工の業者はいないでしょう」と胸を張って語ります。